標高差2200m、急登で有名な黒戸尾根を登り、甲斐駒ケ岳~鳳凰三山~夜叉神へ縦走しました。
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山名/山域; 甲斐駒ケ岳、鳳凰三山/南アルプス北部
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ルート; 黒戸尾根~甲斐駒ケ岳~早川尾根~鳳凰三山~夜叉神
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登山形態; 単独 山小屋利用 縦走
- 日程; 2005/08/04(木)~06(土) 2泊3日
- MAP
- 高低図
※時間・数値・装備及び感想は、この山行時・個人のモノです。 あくまでも参考としてください。
Day-1 2005/08/04(木)
- ルート; 日野春駅→黒戸尾根~七丈小屋
- 行程; 5時間30分(移動時間4時間45分)
日野春駅
特急代をタクシー代に回すため早起きした。3時間半かけて日野春駅に到着。
さっそく、タクシーの運転手さんから「黒戸尾根に遭難者がいるらしい…」と告げられる。最初からちょっと『ドキドキ』 とりあえず16:00までに小屋に着かなければ夕食自炊だ。
駐車場にTVが来ている 『遭難者が?』 いえいえドラマの撮影でした。 再建中の竹宇駒ヶ岳神社を横目に進むと、吊橋下の清流が涼しげ。 橋を渡るとすぐに広葉樹林に包まれ、最初はきついが荒れていない十二曲りをしっかり登りはじめる。
1240m地点
斜度は思ったほど無い。水平な道も所々ある。が、まだまだ先が長いので焦らず登る。
平日の黒戸尾根と言う事で人がいない。この日、上下合わせて6パーティしか出会わなかった。
静かな森の木漏れ日がスポットライトのように登山道を照らす。水場の粥餅石への道は通行止めになっていた。先の五合目小屋跡裏の水場も弱かった。
黒戸尾根は登り口から七丈小屋までは水場は無い
横手合流点
横手側の尾根が木々の合間に見えてくる。1500mを越えてからやや斜度が増した。小休止を入れながら進む。
八丁坂の取り付きあたりで捜索隊の方々がヘリコプタと無線でやりとりをしている。
まだ発見されていないようだ。
八丁坂は短い急登。登りきれば尾根沿いとは思えないほど深い森中を緩く行く。
1870mあたりは南アルプスらしいクマ笹の広場になっていて、緑が目を潤してくれる。
刃渡り
大きな岩が出てくるとすぐに刃渡り。風が抜ける。幅も鎖もあり問題ないが、東の方で雷様が〔ゴロゴロ〕言い出してきた。
ガスが巻く。まだ雨も強風も無いが、ちょっと心配『天気予報のウソツキ。』 先を急ぐ事にする。
しばらくすると最初のハシゴが出るが、この先の五合目小屋跡下までは、安定しているのでストックは無理に収納しなくても良い。
刀利天狗をシケイン状に抜け黒戸山の右を巻いて行く。しばらくすると五合目小屋跡までの下りになる。
黒戸尾根の大岩の周りには新旧の石碑がたくさんある。○○神や凸凹行者など宿神・仏法・願掛けなど、古くからの強い山岳信仰が感じられる。しかし、よくここまで重たい石碑を運んだものだと感心する。
この先はハシゴや岩場が連続してくる。しっかりした物もあれば怪しい物もある。頭の上で〔パラパラパラ〕と雨が振り出した。結構降っているようだが、豊かな木々の葉のおかげであまり濡れない。結局、小屋までザックカバー・レインスーツを出さずに済んだ。『ありがたい。』しかし足元は滑りやすくなっているので慎重に行く。
森を抜けると目の前にシルバの壁。小屋に着いたようだ。
先着のグループの方が遭難者を発見していた。
「五合目先の吊橋を超えた水平のなんでも無いような道の崖下70mぐらいに 横たわっているのを偶然見つけた。行方不明から2日過ぎている。」との話だ。私には解からなかった。小屋の管理人さんも下までおりて報告などで手間どっているらしい。
『山の危険て何だ?古くは信仰で登られてきた尾根を、今はほとんどの人々が趣味で行き来する。岩場や危険と言われている場所は誰でも慎重になるし、無理だと思えば引き返すこともできる。でも誰もが「こんな所で」と思う場所であっても、街中なら「ちょっとコケちゃった」で済むことが山行では命取りとなる場合がある。その時に分かれ目となるのは何だろう? 反射神経? 残体力? それとも運?』 単独山行が多い私の心はあれこれゆれる。
待ち時間の間にCoffeeを点てる
小屋の水はとても美味しい そのままでももちろん、七丈小屋の水は『なめらか』でCoffeeにとても合う。
日本語がお上手なイギリスのソロの方の話しが興味をそそる。 16:30過ぎに管理人さんが戻ってきた(買い物も済まして凄いスピード!)
管理人さんはお一人で運営なさっているので、今日の小屋泊まりは13人。 すっかり遅くなってしまったのに、ちゃんと夕飯を用意してくれる 『いただきます。』
七丈小屋は予約は不要だがが、遅着や人数が増えると面倒を見れなくなるとのお話
Day-2 2005/08/05(金)
- ルート; 七丈小屋~甲斐駒ケ岳~早川尾根~早川尾根小屋
- 行程; 9時間40分(移動時間7時間)
七丈小屋
ストック収納で出立
テント場の先から低木帯が始まる。岩場が続きウキウキ気分。
御来光場
大鳥居は無くなっていた。
八合目まで進むと斜度も緩くなり、前方に甲斐駒ヶ岳の頂がそびえる。まさに、深田久弥が絶賛する山容『かっこいい~』 しばらく見惚れる。
甲斐駒ケ岳
頂上手前に新しい祠が祭ってある。空が近い。北岳・仙丈ガ岳がしっかり見える。
韮崎方面からガスが這い上がってくる。あっという間に真っ白だ。足下の駒津峰も見えなくなる。
今日は駒津峰で甲斐駒をスケッチする予定だったが無理かな?
摩利支天で【タタラ】や【もののふ】の息吹を見るころには周囲は完全ミルキー。六方石から駒津峰の間は道幅狭いアップダウンのルート。ちょうど北沢峠から登ってくる方々と重なり待ち時間が増える。
駒津峰
駒津峰まで下って振り返っても甲斐駒ヶ岳はガスに隠れたまま。残念!
大勢の人が休憩しながら、少しでも山が見えると「あっ!」とか「見えた」と声を上げ登場を待ちわびている。 自分は次の栗沢山での展望を期待し、仙水峠に下りる。しかし、500m下りて450m登るって『う~ん』 急下りだが幅広く浮き石は少ないので下り易し。
仙水峠
仙水峠からは急下後の急登なので少し休憩。りっぱなカメラを持って登って来た人も甲斐駒が見えなくって残念そうだ。
黒く大きなケルンに導かれ栗沢山を目指し登りだす。とたんに道幅狭く、苔生す岩と露出根の登りが2450mぐらいまで続く。『黒戸尾根よりキツイカモ!?』 その後、低松・岩帯になり意外と姿の良い栗沢山が見えてくる。入山者が少ないらしく、低松がニョキニョキ登山道を覆い隠す。マークも少ないので登山道を外れないように踏み跡をトレース。松の新芽の香りが鼻をくすぐる。
マークも少ないので登山道を外れないように踏み跡をトレース
栗沢山
栗沢山頂上でCoffeeを点て、霧が晴れるのを待つ。
北岳、仙丈ヶ岳方面の視界はあるが甲斐駒ヶ岳方面は、韮崎方面からの雲が北沢峠を通り道とし、すっかり白く覆い隠してしまっている。40分位待つが状況変わらず_ 栗沢山をあとにする。
この先の稜線歩きは気持ちいい。ほんとに人が居ない 『人が居る方が不自然』だと思えてきた。
南アルプスの森林限界は高い。頂から少し下るとすぐに深い森となる。豊かな森と岩尾根が何度も繰り返し目の前に広がる。『コノサキハドウナッテイルノカナ? ナニガアルノカナ?』 どんどん脚が出る。
アサヨ峰(浅夜峰)
なんて調子に乗っていたら…やってしまいましたミスコース!
早川尾根はアサヨ峰で左に大きく曲がる所を、岩伝いにまっすぐに進んでしまい登山道外の尾根に入り込んでしまった。岩場から低木帯に迷い込み、道が無くなったところで気がついてルートを確認。アサヨ峰まで戻る。『ちゃんとマークもあるじゃん』自分を叱る。視界が悪いのに休憩時に方向確認せずに『稜線を真っすぐ』の思い込みで間違えた。先に休憩されていた【美濃加茂山岳会】付の方々にもご心配をおかけいたしました。
アサヨ峰からの稜線はちょっとキツ目アップダウンを繰り返す。ミヨシの頭からは疲れも出てきたのでペースダウンし早川尾根小屋に下る。
アサヨ峰で左に大きく曲がる
早川尾根小屋は予約制。今日の小屋泊は10人程度。食事までに時間があるので缶ビール(¥600)を飲みながら、一緒に着いた【美濃加茂山岳会】付の方々から色々な話を聞く。まだ行ったことがない山の話はとても楽しい。
美味しい夕食後は小屋の管理人さんが、ランプの灯火の下でケーナとオカリナを演奏してくれる。素朴な喜びと哀愁の音色が山にはとても合っていた。
早川尾根小屋は予約制
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Day-3 2005/08/06(土)
- ルート; 七丈小屋~早川尾根~鳳凰三山~夜叉神→甲府駅
- 行程; 9時間40分(移動時間7時間)
早川尾根小屋
早川尾根小屋の水も冷たくておいしい。充分補充し出立。今朝も真上の天気は良い。早朝のシングルルート。枝打ちされた木々の合間に朝日が瞬く。小屋から10分ほどで小ピークに。右手の北岳。モルゲンロートは過ぎてしまったが、それでも美しい。
広河原峠
振り返れば甲斐駒。『やったね!』視界がクリアなうちに高い所へと峠からの急登を駆け上がる。
赤薙沢ノ頭
誰もいない早朝の赤薙沢ノ頭(アカテイサワノアタマ?) 展望よく山々を望めた。
山観三昧にひたれ『満足。』 今日も、昨日と同じ方向から雲が来ている。白鳳峠に下る。
白鳳峠
この辺は腰下の植物が道を覆っているので、朝露の時間は半身シャワーのように濡れる。短い水平道に出て左に折れるとすぐに急登の岩場が現れる。
この岩場ではストックを収納する
高峰
高峰では再びガスが山々をかくす。風が寒いくらいに抜ける。休憩中はフリースを羽織る。
高峰を下りだすと突然、霧の合間に巨人のようなオベリスクと白い斜地が〔ユラッ〕と現れる。『幻想的な鳳凰のお招きに感謝』 また青空が見えてきた。振り向けば、歩いてきた高峰からの尾根の緑が眩しい。この辺から登山者が一気に増えてくる。『あぁ 土曜日だったね。』
鳳凰 地蔵岳
賽ノ河原へはアカヌケ沢の頭から、行きに下るピストン。
下から見あげるオベリスクのなんとシンボリチックなことか。青い空、早流する雲、緑のアクセントが差す斜砂礫地の舞台に横たわるモノトーンの巨石群。その巨石から、蕾のようなセンタの岩が『ここにいるぞ』と突き破ぶったかのようにそびえる。人には絶対に出来ないカタチ。そういえば賽ノ河原は子宝祈願のお地蔵様が並んでいる。昔の人々も『誕生』を想ったのかしら?
早速、荷物をデポして登攀に向かう。途中、降りてきたおじさんが「最後のロープの所が登れなかった。年齢的に無理できないよ。」と笑っていらっしゃった。
確かに。センタ岩にはイギリスの方や【美濃加茂山岳会】の方々からも聞いたように、左側面に垂直8mほどのV溝があり、新旧数本のロープが垂らしてある。『誰が何時張ったか解からないザイル』ちょっと怖い。上部も岩にすれっぱなしのようだ。ロープのテンションを確認し、グラブを締め直す 『ままよっ』背中も使いルンゼの中に身体を入れて登るが、ロープのみに頼ら無ければならない所も数ステップある。『やばっ 笑っているよ。』自分に気がつく。
百年前W.Westonが登ったと言われる頂からの展望はガスのためそうでもない。ドンドコ沢のなだらかな渓谷が足元から広がる。先ほどのおじさんが下で手を振ってくれる。降りる前に打ち込んであるボルトとロープを確認し、最初の一歩を踏み出す。
降りてオベリスクを再び見上げる。『楽しいケド、このまま見ているほうがイイ』 Coffeeを飲みながらスケッチをきめこむ。
アカヌケ沢の頭に戻ると【美濃加茂山岳会】付の方々に再び会う。オベリスク登頂を報告する。
鳳凰 観音岳
観音岳は鳳凰三山の真ん中で主峰とされている。頂上は団体さんでいっぱい。振り向けば地蔵岳方面が良く見える。今日はガスが多いが、紅葉期の晴時はとても綺麗だそうだ。タカネビランジの花が咲く稜線を薬師岳に向う。
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薬師岳への稜線でいったん人が居なくなる。静寂だ。風も無く、自分の呼吸と登山靴が白砂礫を噛む音が大きく聞こえる。白砂礫と風化した大きな花崗岩があいまって禅寺の枯山水庭のようだ。晴れていれば野呂川を挟んで重厚な北岳が見えるであろうが、今は上半分が雲の中。裾身から想像で観る北岳は頭の中でどんどん大きくなる。
鳳凰 薬師岳
薬師岳山頂からは、青木鉱泉への下山道の分岐がある。青木鉱泉か夜叉神(ヤシャジン) -ヤシャガミかと思っていました- どちらに下るか迷う。青木鉱泉のお風呂も魅力的だが、厚雲の流れは今日も東から来ている。南もガスっているが薄めだ。土曜日だから青木鉱泉は混んでいる可能性も高い 『夜叉神に下ろう』。
薬師岳頂上から少し下ると薬師岳小屋。
小屋前の休憩中の方々の間をすり抜ける。宿泊は予約で満員お断りになっていた。 小屋先の短い岩場を越し森の中へ 。夜叉神で余裕するためスピードアップ。すぐに南御室小屋の声が聞こえてくる。
鳳凰三山の各小屋も予約制
こちらの小屋も予約で満員。広場は賑わっている。ここで一応、水を補充する。
苺平への登りは、自然の石畳で時代劇のよう。
苺平
苺平ってかわいい名前だ。由来は解からないが杖立峠からの登りをこなした皆さんが、美味しそうなお弁当を広げていた。
岩も小ぶりになり、溝状になってしまった登山道も出てくるが、広目の登山道で楽に下れる 。
山火事跡
杖立峠
だいぶ時間を稼げた。山の上はガスっているようだが、この辺はすっかり晴天になった。やや荒れた場所もある道を一気に下り、軽く上り返せば夜叉神峠小屋だ。
小屋前はのどかな草原になっている。間ノ岳が良く見えた。下りてきた杖立峠側も以外と標高差を感じられる。ベンチに腰をおろし、今回の山行を振り返る。
登山口までの広くなだらかなハイキングコースを整理運動のようにゆっくり下りる。
夜叉神登山口
バスの時間より早めに下山できた。【夜叉神の森】でお風呂〈¥640)。4~5人でいっぱいの浴槽だが貸切状態で疲れも無くなる。緑色麺の山菜蕎麦とトコロテン美味しかったです。駐車場は結構空きがある。広河原発のバスは自分で丁度満席となる。
甲府駅
山を下りた甲府の街は蒸暑い。千葉直行【あずさ32号】の指定は売り切れ。待ち時間にキレイになった甲府駅をチョイブラする 。
コンロ(中カートリッジ*1)
30Lザック(9kg)、Wストック
黒戸尾根の登りは長いが急登感はない。気がついたら七丈小屋まで1600mを登っていた気分。その先は急登となるが展望が良い岩場なので、『あっ』という間に甲斐駒ヶ岳山頂でした。駒津峰側からの甲斐駒ヶ岳スケッチは残念ながら次回持ち越しとなったが、人が少ない早川尾根は『空飛ぶ龍の背のごとし』 気分爽快で、どこまでも行きたい気持ちになった。
鳳凰三山は思っていたよりずっとすばらしかった。特に地蔵岳のオベリスクは強烈な印象。このコース逆の方が良いかもしれない。何度も後ろ髪を引かれたから。次回は秋の逆コースを行きたい。
お世話になった小屋の方々、ありがとうございました。おかげさまで良い山行でした。 ソロのイギリスの方、【美濃加茂山岳会】付の方々、そのほかの方々も、また何時か山でお会いいたしましょう。